東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)155号 判決 1969年12月25日
原告
株式会社タカオカ
代理人
田倉整
弁理士
秋山鳳見
外四名
被告
足立昌一
代理人
宇津呂雄章
弁理士
宇津呂義雄
主文
特許庁が、昭和四二年一〇月一三日、同庁昭和三九年審判第三、〇三五号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実《省略》
理由
<前略>
(審決を取り消すべき事由の有無について)
二本件審決は、本件考案(登録第七一八、六〇〇号実用新案、昭和三六年一〇月二三日出願)と引用考案(登録第七三九、一〇〇号実用新案、昭和三六年六月三〇日出願)とが、全体として、実用新案法第七条第一項にいう「同一の考案」に当らないとした点において、判断を誤つた違法があるといわなければならない。すなわち、台板(截板)に対する止針(ヤール掛け用針)の装着の方法について、引用考案は、単に「(截板の)上端に横方向に移動自在にヤール掛け用針を附設し」として、その具体的構成について何ら限定するところがないのに対し、本件考案は、「台板の後端面にアングル鋼を装着し、これに止針を装着した摺動具を摺動自在に嵌着し」という限定要件を付していることは、前掲各考案の要旨を対比すれば明らかなところである。ところで、本件考案における右限定要件は、止針の装着方法についての具体的技術手段の一つであるが、<書証>によると、右と同一の技術手段が、考案の要旨において何の限定もしていない引用考案の明細書添付の図面(別紙図面第二)に実施例として明示されていることが認められ、この事実に本件弁論の全趣旨を総合考量すれば、本件考案の登録出願当時の技術水準からみて、この種截断台にあつては、截断すべき織布の大小により適当数の止針を摺動移行させて所要箇所に固定する必要があることは当然であり、そのための技術手段として、止針を装着した摺動具を台板の端縁に附設したアングル鋼等に嵌着して摺動移行させるようにすることは、本件及び引用の各考案の対象である裁断台の属する技術分野において、通常の知識を有する者が普通に採用する程度の技術手段であると認めるのが相当であり、他にこの認定を左右すべき証拠はない。そして、また、成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)によつても、本件考案が前記限定要件を付したことにより、引用考案に比して特段の作用効果を奏するに至つたことを認めることはできないものである。被告は、「移動自在」とはそのつど着脱する直接装着を意味し、間接装着を容れない観念である旨主張するが、そのように解すべき根拠は、これを見出だすことができない。したがつて、本件考案は、引用考案に単なる慣用手段を附加したにすぎないものであり、本件考案と引用考案とは実質的に同一の考案と認めるのが相当である。そして、本件考案の出願日が昭和三六年一〇月二三日であることは、前認定のとおりであり、引用考案の出願日が昭和三六年六月三〇日、出願公告日が昭和三八年一二月二三日であることは甲第三号証によつて明らかであるから、引用考案は本件考案の先願に当ることが明らかであり、本件考案は、実用新案法第七条第一項の規定に違反して登録されたものとして、無効たるを免れないものである。
(むすび)
三叙上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。(服部高顕 三宅正雄 石沢健)